Linuxカーネルのptraceの認可回避の脆弱性CVE-2026-46333

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目次
  1. 脆弱性の内容
  2. 時系列
  3. 対象の製品と版
  4. 悪用の状況
  5. 修正と回避策
    1. 修正前の緩和策
    2. 国内の事業者の告知
  6. 未公表の事項
  7. 出典
  8. 更新記録
  9. 関連記事

Qualysの2026年5月20日のアドバイザリによると、Linuxカーネルの__ptrace_may_access()関数に、認可の回避となる論理の欠陥(CVE-2026-46333)がある⁠[24]。ローカルから情報の開示とrootでの任意のコマンド実行に悪用できる⁠[24]。10月15日更新のCVE記録では、影響を受ける製品にSiemensのSIMATICとSIPLUSのS7-1500の一部が加わった⁠[1]。

脆弱性の内容

Qualysは、プロセスのmmのポインタがNULLだとdumpableのフラグの確認が完全に飛ばされると説明した⁠[24]。カーネルは、プロセスが終わるときにdo_exit()の中でmmをNULLにしている⁠[24]。権限を攻撃者のuidとgidに落とした直後のプロセスをSIGKILLし、mmがNULLになった後、filesがNULLになる前にpidfd_getfd()を呼ぶと、そのプロセスが開いているファイル記述子を盗んで自分のものとして使える⁠[24]。

CVE記録に載った修正のコミットの説明では、ptrace_may_access()はdumpableをMMと無関係のさまざまな確認に使っており、VMを持たないスレッドもその対象になる⁠[1]。修正では、MMのポインタが無いとき、スレッドがMMを持っていたことがあればキャッシュした「last dumpability」を使い、上書きにはCAP_SYS_PTRACEを要するようにした⁠[1]。

Qualysのエクスプロイトはいずれも、2020年1月(v5.6-rc1)に入ったpidfd_getfd()に頼る⁠[24]。Qualysは、ほかの悪用の方法もありうるとした⁠[24]。

表1:CVE-2026-46333の評価
項目値資料
CVE記録の題ptrace: slightly saner 'get_dumpable()' logic⁠[1]
CVSS 3.1(LinuxカーネルのCNA)7.1(HIGH、AV:L/AC:L/PR:L/UI:N/S:U/C:H/I:H/A:N)⁠[1]
CVSS 3.1(NVD)7.1⁠[8]
CVSS 3.1(Red Hat)7.8、評価はImportant⁠[1]
CVSS 3.1(SUSE)7.8、重大度はimportant⁠[8]
CVSS 3.1(CISA)5.5(Medium。Canonicalも同意し、Ubuntuの優先度はHigh)⁠[7]
CVSS 3.1(Amazon Linux)5.5(C:H/I:N/A:N)、重大度はMedium⁠[11]
SSVC(CVE記録のCISAのADP、5月21日)Exploitation「poc」、Automatable「no」、Technical Impact「total」⁠[1]

OpenBSDのマニュアルでは、ssh-keysignは、ssh(1)がホストベース認証でローカルのホスト鍵にアクセスして署名を作るための補助プログラムである⁠[30]。既定では無効になっている⁠[30]。ホスト鍵はrootだけが読めるため、ホストベース認証を使うならset-uid rootでなければならない⁠[30]。

Qualysは、ssh-keysignは/etc/ssh/ssh_configでEnableSSHKeysignが既定で無効でも、ホストの秘密鍵のファイルを開いてから権限を落とすと説明した⁠[24]。chageは、-lを付けて実行すると/etc/shadowを読み取りで開いてから権限を落とす⁠[24]。このプロセスにループでpidfd_getfd()を呼び続けると、やがてdo_exit()での競合に勝つ⁠[24]。悪用できるプログラムは網羅的に探しておらず、より良い対象がありうるとした⁠[24]。

表2:攻撃の対象と成功を示した環境
対象開示・実行できるもの成功を示した環境資料
chage(Qualys)/etc/shadowの内容の開示Debian 13、Ubuntu 24.04・26.04、Fedora 43・44の既定のインストール⁠[24]
ssh-keysign(Qualys)ホストの秘密鍵(/etc/ssh/*_key)の開示Debian 13、Ubuntu 24.04・26.04の既定のインストール⁠[24]
pkexec(Qualys)実際の利用者がその場に座っているときの、rootとしての任意のコマンド実行(攻撃者はsshdなどで遠隔からログインしていてよい)-⁠[24]
accounts-daemon(Qualys)rootとしての任意のコマンド実行Debian 13、Fedora Workstation 43・44の既定のインストール(Ubuntuは既定でkernel.yama.ptrace_scopeを1にしており悪用できない)⁠[24]
公開のPoC(ssh-keysign-pwn)-Raspberry Pi OS Bookworm 6.12.75、Debian 13、Ubuntu 22.04・24.04・26.04、Arch、CentOS 9(リポジトリの主張)⁠[26]

Red Hatの5月16日のRHSB-2026-004では、盗める記述子に、SSHのホスト秘密鍵や/etc/shadowのほか、システムのサービスへのD-Busのセッションのような認証済みのIPC接続も含まれる⁠[3]。

Canonicalはブログで、/etc/shadowのハッシュから平文のパスワードを得るには、総当たりが別に要ると書いた⁠[7]。Ubuntuが使うアルゴリズムはこの種の攻撃に強いとされるが、パスワードが現行の推奨に沿っている必要がある⁠[7]。ホスト鍵の開示は、まれなホストベース認証を使う環境で利用者のなりすましにつながりうる⁠[7]。コンテナ環境では、開示されうる情報の範囲はコンテナの中までである⁠[7]。

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時系列

時系列
日付主体内容資料
2016年11月-v4.10-rc1のコミットbfedb58で欠陥が入った(Qualysの知る限り)⁠[24]
2026年5月11日QualysアドバイザリとPoCをsecurity@kernelに送った⁠[24]
2026年5月14日Linuxカーネルの開発者修正(31e62c2)を公開でコミットした⁠[24]
2026年5月14日Qualys非公開のlinux-distrosに事前の連絡を送った⁠[24]
2026年5月15日2時20分Qualysoss-securityに、報告した脆弱性が修正されたと投稿した(時刻はUTC)⁠[19]
2026年5月15日12時58分LinuxカーネルのCNACVE-2026-46333のCVE記録を公開した(時刻はUTC)⁠[1]
2026年5月15日LinuxカーネルのCVEチームlinux-cve-announceにCVEの告知を掲載した⁠[2]
2026年5月15日17時30分QualysLinuxカーネルのCVEチームがCVE-2026-46333を割り当てたと投稿した(時刻はUTC)⁠[22]
2026年5月16日19時33分Red HatRHSB-2026-004を公開し、影響度をImportantとした⁠[3]
2026年5月19日CanonicalUbuntuの緩和策と修正のブログを公開した⁠[7]
2026年5月20日Qualys完全なアドバイザリを公開した⁠[24]
2026年5月20日JPCERT/CCWeekly Reportで、CVE-2026-46333とCVE-2026-46300(通称Fragnesia)の概念実証コードの公開を取り上げた⁠[18]

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対象の製品と版

AlmaLinuxの5月15日のブログでは、AlmaLinux 9と10で公開のPoCが確実に動く⁠[9]。AlmaLinux 8は公開のPoCでは悪用できないが、4.18のカーネルにも欠陥はあるため修正を出すとした⁠[9]。修正済みのカーネルは、5月16日15時5分(UTC)に本番のリポジトリへの配布が始まった⁠[9]。

CIQは、Rocky Linux 8のカーネル(4.18)にも同じ欠陥があるとした⁠[12]。pidfd_getfd()はカーネル5.6で入ったため、el8ではエクスプロイトの経路に届かない⁠[12]。

Red HatのCVEデータベースでは、OpenShift Container Platform 4の影響度はLowである⁠[4]。既定のrestricted-v2のSCCがすべてのポッドでallowPrivilegeEscalationをfalseにし、setuidのビットが無視されるためとした⁠[4]。

表3:配布元の対応状況
配布元状態修正版・アドバイザリ資料
上流(Linuxカーネル)4.10から影響、修正版あり(4.10より前は影響なし)5.10.256・5.15.207・6.1.173・6.6.139・6.12.89・6.18.31・7.0.8・7.1⁠[1]
Debian trixie修正版ありlinux 6.12.88-1(DSA-6274-1、5月15日。ほかの5件のCVEと同時)⁠[6]
Debian bookworm修正版ありlinux 6.1.172-1(DSA-6275-1)⁠[5]
Debian bullseye修正版ありlinux 5.10.251-5(DLA-4587-1)、linux-6.1 6.1.172-1~deb11u1(DLA-4588-1)⁠[5]
Debian unstable修正版ありlinux 7.0.7-1⁠[5]
Ubuntu 26.04 LTS修正版あり7.0.0-22.22⁠[7]
Ubuntu 25.10修正版あり6.17.0-35.35⁠[7]
Ubuntu 24.04 LTS修正版あり6.8.0-124.124、HWE 6.17.0-35.35~24.04.1⁠[7]
Ubuntu 22.04 LTS修正版あり5.15.0-181.191、HWE 6.8.0-124.124~22.04.1⁠[7]
Ubuntu 20.04 LTS修正版あり(5.15系だけ影響、5.4系は影響なし)5.15.0-181.191~20.04.1⁠[7]
Ubuntu 14.04・16.04・18.04影響なし-⁠[7]
Red Hat Enterprise Linux 10修正版ありkernel-6.12.0-211.16.1.el10_2(RHSA-2026:19569、5月20日)⁠[4]
Red Hat Enterprise Linux 9修正版ありkernel-5.14.0-687.10.1.el9_8(RHSA-2026:19568、5月20日)⁠[4]
Red Hat Enterprise Linux 8修正版ありkernel-4.18.0-553.125.1.el8_10(RHSA-2026:19666、5月20日)⁠[4]
Red Hat Enterprise Linux 6・7影響なし-⁠[4]
Red Hat OpenShift Container Platform 4修正見送り(Fix deferred)-⁠[4]
SUSE(SLES 16.0ほか)修正版あり例としてSLES 16.0のkernel-default 6.12.0-160000.33.1以降。最初のSUSE-SUは5月17日のSUSE-SU-2026:1899-1⁠[8]
AlmaLinux 8修正版あり4.18.0-553.124.4.el8_10(ALSA-2026:A008)⁠[9]
AlmaLinux 9修正版あり5.14.0-611.54.6.el9_7(ALSA-2026:A009)⁠[9]
AlmaLinux 10修正版あり6.12.0-124.56.5.el10_1(ALSA-2026:A010)⁠[9]
CIQ(Rocky Linuxの商用版)修正版あり例としてRLC Pro 8のkernel-4.18.0-553.123.1+5.1.el8_10_ciq(5月19日)⁠[12]
Amazon Linux 2023、Amazon Linux 2の5.10・5.15 Extra修正版ありALAS2023-2026-1752・1753・1754、ALAS2KERNEL-5.10-2026-120、ALAS2KERNEL-5.15-2026-104(5月26日)⁠[11]
Amazon Linux 2 Core・Kernel-5.4 Extra影響なし-⁠[11]
Google Container-Optimized OS M117修正版ありcos-117-18613-613-15(5月21日)⁠[13]
CloudLinux 8 LTS・9・10影響あり。5月15日13時(UTC)の状況では修正版を作成中AlmaLinuxのkernel、CloudLinux 8 LTSのkernel更新、KernelCareのlivepatchで対応する予定⁠[10]
CloudLinux 7影響なしkernel 3.10⁠[10]

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悪用の状況

AlmaLinuxのブログによると、修正の数時間後に2つのエクスプロイトが公開された⁠[9]。1つはssh-keysignを通じて/etc/ssh/ssh_host_*_keyを読み、もう1つはchage -lを通じて/etc/shadowを読む⁠[9]。通称のssh-keysign-pwnは、その1つの名前に由来する⁠[9]。

Qualysは最初の投稿で、linux-distrosにも連絡したが、エクスプロイトが既に公開されているためoss-securityに送るよう言われたと書いた⁠[19]。配布元と利用者に修正の時間を与えるため、アドバイザリの公開はまだ控えるとした⁠[19]。

Qualysの5月20日のブログでは、公開のカーネルのコミットから作られた独立のエクスプロイトが現れてエンバーゴが保護にならなくなり、リストの管理者が公開のoss-securityに議論を移すよう求めた⁠[25]。Qualysは同じ日のoss-securityへの投稿で、別の研究者が詳しい記事を公開したため、完全なアドバイザリを公開するとした⁠[23]。

@ITは、PoCの説明では100回から2000回程度の試行で成功したケースが確認されたと報じた⁠[28]。

JPCERT/CCのWeekly Reportによると、悪用にはローカル環境での操作が要るものの、別経路でネットワーク侵害を受けた結果、権限昇格に悪用される可能性がある⁠[18]。JPCERT/CCは、修正版や対策情報が公開されたら速やかに適用するよう勧めた⁠[18]。

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修正と回避策

修正前の緩和策

Qualysはoss-securityへの投稿で、/proc/sys/kernel/yama/ptrace_scopeの値を2か3にすると、Qualysの知るエクスプロイトをすべて防げることを確かめた⁠[21]。2は管理者だけが付加でき、3は付加ができない設定で、理論上はほかの悪用の方法もありうるとした⁠[21]。Qualysは5月20日のブログで、修正を待つ間の緩和策としてkernel.yama.ptrace_scopeを2に上げるよう勧めた⁠[25]。信頼できないローカルユーザーを許していたホストでは、SSHのホスト鍵とローカルにキャッシュした認証情報を開示された可能性があるものとして扱うよう求め、ホスト鍵の入れ替えを推奨した⁠[25]。

Red HatのRHSB-2026-004では、悪用はpidfd_getfd(2)に頼り、ptrace_scopeの制限で塞げる⁠[3]。Red Hatは、根本の欠陥はカーネルがプロセスを終える順序にあり、ptraceに頼らない悪用の経路もありうるとした⁠[3]。修正が出たらカーネルの修正を当てることだけが、包括的な対策になると説明した⁠[3]。

Red Hatは、ptrace_scopeを2にすると、root以外のユーザーは自分のプロセスにもgdbやstraceなどのデバッガを付けられなくなるとした⁠[3]。3にするとrootを含めて付加がすべて止まり、3から別の値に戻すには再起動が要る⁠[3]。

CIQの技術記事によると、SELinuxでは未対策のシステムを守れない⁠[12]。既定のtargetedの方針では、一般ユーザーはunconfined_tのドメインに置かれ、ptraceやpidfd_getfdの使用を制限されない⁠[12]。

国内の事業者の告知

表4:国内の事業者の告知
事業者告知の日内容資料
シックス・アパート(Movable Typeクラウド版)5月18日対策を行い、5月16日7時20分ごろにすべての顧客の対応を終えた。自動アップデートを無効にしている環境も対象で、Movable Typeの版は変えていない⁠[14]
シックス・アパート(Movable Type AMI版)5月18日利用者がAmazon Linuxで対応する⁠[14]
KAGOYA5月18日OS・ミドルウェアの管理権限が顧客にあるKAGOYA CLOUD VPSなどで、カーネルの更新か回避策の実施の検討を求めた。マネージドサービスは対策済みか影響がないとした⁠[15]
HPCシステムズ5月20日自社のサーバ製品で、5月18日の状況ではUbuntuの全版に修正済みカーネルが出ていないとして暫定対処を強く勧めた。AlmaLinuxの修正済みカーネルは動作を検証してから適用方法を案内する⁠[16]
HPCテクノロジーズ5月17日(7月21日更新)6月14日6時の状況の修正済みパッケージを、RHEL・Rocky Linux・AlmaLinux・Ubuntuごとに一覧にした。Rocky Linuxはrpmのchangelogで確かめた⁠[17]

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未公表の事項

  • CVE記録のCWEの分類
  • 実環境での悪用と被害の報告
  • CISAの既知の悪用された脆弱性のカタログ(KEV)への掲載の有無
  • Siemensの製品の修正の有無

出典

当事者

関係組織

公的機関

調査・観測

報道機関

背景資料

更新記録

  • 2026年5月21日:公開した。
  • 2026年5月22日:Qualys, Inc.のブログの5月22日の更新(出典25)を加え、「悪用の状況」と「修正と回避策」を改めた。
  • 2026年6月16日:Canonical Ltd.のUbuntuのブログの6月16日の更新(出典7)を加え、「脆弱性の内容」と「対象の製品と版」を改めた。
  • 2026年6月26日:CloudLinux Inc.のブログの6月26日の更新(出典10)を加え、「対象の製品と版」を改めた。
  • 2026年7月3日:Red Hat, Inc.のRHSB-2026-004の7月3日の更新(出典3)を加え、「脆弱性の内容」と「修正と回避策」を改めた。
  • 2026年7月10日:OpenBSD Projectのssh-keysign(8)のマニュアルの7月10日の版(出典30)を加え、「脆弱性の内容」を改めた。
  • 2026年7月21日:HPCテクノロジーズ株式会社の告知の7月21日の更新(出典17)を加え、「修正と回避策」を改めた。
  • 2026年10月15日:The Linux Kernel Organization, Inc.のCVE記録の10月15日の更新(出典1)でSiemensの製品が加わったことをリードに加えた。

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