Linux KVMのシャドウページングの脆弱性CVE-2026-53359

カテゴリ
脆弱性の公表
目次
  1. 脆弱性の内容
    1. 配布ごとの既定の設定
    2. 評価した組織ごとの値
  2. 時系列
  3. 対象の製品と版
  4. 悪用の状況
  5. 修正と回避策
    1. クラウド事業者と保守事業者
    2. ハイパーバイザーの一斉再起動
  6. 未公表の事項
  7. 注
  8. 出典
  9. 更新記録
  10. 関連記事

LinuxカーネルのCVEチームの2026年7月4日のCVE記録では、KVM(x86)のシャドウページングのuse-after-free(CVE-2026-53359)が修正された⁠[1]。発見者は7月6日に「Januscape」の名で公表し、Intel・AMDのx86ホストのKVMでゲストがホストへ脱出できると説明した⁠[17]。Google Cloudは、本番環境で顧客への悪用の証拠を観測していないとした⁠[9]。

脆弱性の内容

CVE記録の説明では、先行のコミット0cb2af2ea66ad(unexpected GFNの修正)が直した不一致と似た穴が、変更したPDEが非リーフのページを指す場合に残っていた⁠[1]。kvm_mmu_get_child_sp()はroleを比べないため、そのページを再利用する⁠[1]。memslotを落とすとシャドウページは解放されるが、rmapのエントリは残る⁠[1]。後でそのgfnをたどるコード(ダーティログ、MMU notifierの無効化など)が解放済みのページのsptepを参照し、use-after-freeになる⁠[1]。

発見者はoss-securityへの投稿で、ゲスト側の操作だけで不具合を起こし、ホストカーネルのシャドウページを壊せると説明した⁠[17]。信頼できないゲストを受け入れてネスト仮想化を出すホスト、特にGCPやAWSなどのマルチテナントのx86パブリッククラウドで、ゲストとホストの分離を脅かしうるとした⁠[17]。security@kernel.orgに報告し、mainlineで修正されたとも書いた⁠[17]。

The Hacker Newsは、攻撃にはVM内のrootと、ホストがネスト仮想化を出していることの2つが要ると報じた⁠[21]。

SecurityWeekは7月7日の記事で、パブリッククラウドではVMを割り当てられた利用者が通常は既定でゲストのrootを持つと報じた⁠[22]。rootが無ければDirty Fragのような権限昇格の脆弱性とつなげられると、発見者が述べたとも伝えた⁠[22]。

配布ごとの既定の設定

RHELなどの配布では/dev/kvmを誰でも書き込める(0666)ため、非特権ユーザーがrootを得る権限昇格(LPE)にも使えると発見者は書いた⁠[17]。CloudLinuxは、CloudLinux 8・9・10では/dev/kvmが既定で誰でも使え、非特権のローカルユーザーがホストをクラッシュさせうるとした⁠[13]。

Ubuntuの7月11日のブログでは、Ubuntuの既定で/dev/kvmに書き込めるのはrootとkvmグループだけである⁠[3]。非特権コンテナはKVMの仮想マシンを起動する権限を持たず経路にならない一方、特権コンテナは安全とみなすべきでないとUbuntuは書いた⁠[3]。

評価した組織ごとの値

Red Hatは、ゲスト内の特権を持つ攻撃者がuse-after-freeを起こせ、システムの不安定化やサービス拒否、ホストでの任意のコードの実行に至りうるとした⁠[5]。CVEチームはCVSSの評価で、スコープが変わる理由を、KVMのゲストからホストへの脱出の類の脆弱性であることに求めた⁠[1]。

表1:脆弱性の評価
項目値資料
影響を受けるファイルarch/x86/kvm/mmu/mmu.c⁠[1]
CVSS 3.1(LinuxカーネルのCVEチーム)8.8(HIGH)、AV:L/AC:L/PR:L/UI:N/S:C/C:H/I:H/A:H⁠[1]
CVSS 3.1(Red Hat)7.8(AC:H)、重大度Important、CWE-825⁠[5]
CVSS 3.1(Amazon Linux)7.0(AC:H、S:U)、重大度Important⁠[8]
CVSS 3.1・4.0(SUSE)8.8・9.3、重大度important⁠[7]
CVSS 4.0(Ubuntu)8.4⁠[3]
優先度(Ubuntu)High(理由はKVMのゲストからホストへの脱出)⁠[4]
NVDNIST自身のCVSSは付けず、CVEチームの値をSecondaryとして掲載、CWE-416⁠[14]
CISAのADP(Vulnrichment)CWE-416、SSVCはExploitation: poc、Automatable: no、Technical Impact: total⁠[1]

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時系列

時系列
日付主体内容資料
2026年7月4日LinuxカーネルのCVEチームCVE-2026-53359を公開した⁠[1]
2026年7月6日発見者linux-distrosと合意した禁止期間が切れたとして、16時(UTC)にoss-securityへ報告を投稿し、DoSのPoCを添付した⁠[17]
2026年7月6日CVE ProgramADPがoss-securityの投稿をCVE記録の参照に加えた⁠[1]
2026年7月6日Google CloudGCP-2026-046(High/S0)で、KVM x86のシャドウページングとネスト仮想化の構成の脆弱性を公表した⁠[9]
2026年7月7日OVHcloud午後の早い時間にCVE-2026-53359の警告を受けた⁠[10]
2026年7月8日CERT Polska告知112/2026を出した⁠[16]
2026年7月8日OVHcloudシドニー(SYD2)のVPSホストから修正と再起動を始めた⁠[10]
2026年7月8日RackNerdKVMのVPSのハイパーバイザーの大半にライブの緩和策を当て、21時30分(PDT)にKVMのVPSの100%が保護されたと追記した⁠[11]
2026年7月9日Red HatRHEL 10向けのRHSA-2026:36956とRHEL 9向けのRHSA-2026:36957を出した⁠[5]
2026年7月11日CanonicalUbuntuのブログで緩和策を案内した⁠[3]
2026年7月14日Red HatRHEL 8向けのRHSA-2026:39083を出した⁠[5]
2026年7月20日OVHcloud修正作業の振り返りを公表した⁠[10]
2026年7月27日CloudCone米ロサンゼルスのVPSノードの全ハイパーバイザーの修正を終えた⁠[12]

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対象の製品と版

CVEチームはCVE記録で、影響を受ける版を2.6.36(commit 2032a93d66fa)からとし、2.6.36より前の版は影響を受けないとした⁠[1]。発見者は、この不具合が約16年潜んでいたと書いた⁠[17]。

Ubuntuのブログによると、影響を受けるのはIntelとAMDのx86_64のKVMのネスト仮想化で、他のアーキテクチャは影響を受けない⁠[3]。クラウド事業者がネスト仮想化を許していなければ影響を受けないとも書いた⁠[3]。公開時のブログの表では、14.04〜26.04の全リリースが影響を受け、「Fix pending」だった⁠[3]。

Google Cloudは、ネスト仮想化をサポートするIntelのサーバー上のx86の仮想マシンは、ネストの有無にかかわらず影響を受けうるとした⁠[9]。Greenboneは、Linuxカーネルではネスト仮想化が既定で有効だと書いた⁠[19]。Red Hatの説明では、RHEL 7のKVMのネスト仮想化はテクノロジープレビューの機能で、kvm_intelとkvm_amdのnestedパラメーターの既定は0(無効)である⁠[5]。

Red Hatは、Red Hat OpenStack Platform 16.2・17.1とRed Hat OpenStack Services on OpenShift 18.0は、ノードで脆弱なRHELかOpenShiftのカーネルを動かすと影響を受けうるとした⁠[5]。IT-Connectは、Proxmox VEとoVirtは製品としてではなく、ホストのカーネルの段階で影響を受けると報じた⁠[25]。

CERT Polskaの7月8日の告知では、CVE-2026-53359はKVMの仮想環境からの脱出を許し、サーバーの完全な乗っ取りに至りうる⁠[16]。CERT Polskaは、CVE-2026-46316の修正を入れていないARMの環境も脆弱でありうると付記した⁠[16]。The Hacker Newsは、ARM64のホストはJanuscapeの影響を受けず、CVE-2026-46316は別のKVM/arm64の問題だと報じた⁠[21]。

表2:配布元の対応状況
配布元状態修正版・アドバイザリ資料
Linuxカーネル(安定版)修正版あり5.15.222〔注1〕、6.1.177、6.6.144、6.12.95、6.18.38、7.1.3以降の各系列と、修正の元のコミットの7.2⁠[1]
Ubuntu修正版あり(26.10は影響なし)26.04 LTSは7.0.0-29.29、24.04 LTSは6.8.0-137.137、22.04 LTSは5.15.0-187.197など⁠[4]
Red Hat(RHEL 10)修正版ありkernel-0:6.12.0-211.32.1.el10_2⁠[5]
Red Hat(RHEL 9)修正版ありkernel-0:5.14.0-687.24.1.el9_8⁠[5]
Red Hat(RHEL 8)修正版ありkernel-0:4.18.0-553.143.1.el8_10⁠[5]
Red Hat(RHEL 6・7)RHEL 7は「Out of support scope」、RHEL 6は「Not affected」-⁠[5]
Debian修正版ありtrixieは6.12.95-1(DSA-6381-1)、bookwormは6.1.177-1(DLA-4688-1)、unstableは7.1.3-1⁠[6]
SUSE「Resolved」-⁠[7]
Amazon LinuxAL2023とAL2のKernel-5.10・Kernel-5.15 Extraは修正済み、AL2のCoreとKernel-5.4 Extraは「Pending Fix」ALAS2KERNEL-5.10-2026-126ほか⁠[8]
CloudLinux9月2日14時(UTC)の状況として、影響を受ける全プラットフォームに修正済みのカーネルあり-⁠[13]

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悪用の状況

発見者は、JanuscapeがGoogleのkvmCTFで0-dayのエクスプロイトとして使われたと説明した⁠[17]。The Hacker Newsは、kvmCTFが完全なゲストからホストへの脱出に最大25万ドルを出すと報じた⁠[21]。研究者は別の未公開のエクスプロイトで同じ不具合をホスト上のコード実行に至らせると主張している、とも伝えた⁠[21]。

CERT-FRの7月13日の週報では、7月6日に研究者がCVE-2026-53359のブログを公表し、PoCが公開されている⁠[15]。CISAのADPは、発見者のGitHubのwrite-upを「exploit」のタグで参照した⁠[1]。

Greenboneは7月23日の記事で、CVE-2026-53359の積極的な悪用はまだ報告されていないと書いた⁠[19]。

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修正と回避策

CloudLinuxは、修正には81ccda30b4e8(CVE-2026-53359)と、その対になる0cb2af2ea66a(CVE-2026-46113)の2つの上流のパッチ〔注2〕がともに要るとした⁠[13]。CVE-2026-46113(unexpected GFNの修正)は5月28日に公開された⁠[27]。Debianの記録では、修正のコミット81ccda30b4e8は7.2-rc1に入った⁠[6]。Linuxのmainlineのリポジトリには、この修正のコミットが掲載されている⁠[2]。

UbuntuとRed Hatは、回避策としてネスト仮想化の無効化を挙げた⁠[3、5]。Ubuntuはこれを更新が出るまでの措置とし、正当な作業を妨げることがあると書いた⁠[3]。

Google Cloudの7月6日の告知では、管理するCompute Engineの全ホストにハイパーバイザーのライブのホットパッチを展開している⁠[9]。管理対象のCompute EngineのVMとGKEのクラスタには、対応が要らないとした⁠[9]。

クラウド事業者と保守事業者

RackNerdの7月8日の告知では、緩和を確かめられないホストは再起動し、停止は10分未満の見込みだった⁠[11]。CloudConeは米ロサンゼルスのVPSノードで、ハイパーバイザーごとに約30分の保守を行った⁠[12]。

TuxCareは7月22日の記事で、KernelCareがCVE-2026-53359とCVE-2026-46113の修正を、再起動の要らないライブパッチとして7月7日から本番のフィードで配ったとした⁠[20]。Greenboneは、RHEL・SUSE・openSUSE・AlmaLinux・Oracle Linux・Rocky Linux・Fedora・Debian向けの検出を自社の検査フィードに入れた⁠[19]。

ハイパーバイザーの一斉再起動

OVHcloudの7月20日の記事では、対象は数万台のハイパーバイザーで、約100万台の仮想マシンを収容する⁠[10]。社内の試験では、未修正のホストが約2分でクラッシュした⁠[10]。

OVHcloudは、修正を自社のDebianのカーネルに移植して全ホストを再起動する方法を選び、ライブパッチ、ネスト仮想化の無効化、ライブマイグレーションは採らなかった⁠[10]。同時に失敗したホストが、高密度のリージョン(GRA、RBX、BHS)で15台、他のリージョンで5台を超えたら再起動の波を止める基準を設けた⁠[10]。

再起動の後には、libvirt-guestsとnova computeの競合でVMが起動しない障害、3つのクラスタにまたがる複数のVMのデータの破損、パリのAPIが約2時間HTTP 503を返す事態が起きた⁠[10]。初日の夜には、6,000台のうち約20〜30台のホストが自力で復帰しなかった⁠[10]。

展開の順序を明かさないため、OVHcloudは当初、公開のステータスページを使わなかった⁠[10]。3日目にPublic Cloudのステータスページを作り、11日目に全機の修正を終えた⁠[10]。

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未公表の事項

  • 発見者が主張する、ホスト上のコード実行に至る未公開のエクスプロイトの内容

注

  • 〔注1〕The Hacker NewsとIT-Connectは、5.15系の修正版を5.15.211とし、5.10.260も挙げた⁠[21、25]。
  • 〔注2〕上流での修正の日付を、CloudLinuxは6月16日と書き、The Hacker Newsはmainlineへのマージを6月19日と報じた⁠[13、21]。

出典

当事者

関係組織

公的機関

調査・観測

報道機関

背景資料

  • [27]LinuxカーネルCVEチーム・CVE Program『CVE-2026-46113』(2026年5月28日公開)

更新記録

  • 2026年7月11日:公開した。
  • 2026年7月13日:CERT-FRの週報(出典15)で示されたPoCの公開を「悪用の状況」に加えた。
  • 2026年7月20日:OVHcloudの振り返りの記事(出典10)を加え、警告の受領と再起動の開始を「時系列」に、再起動作業の経過を「修正と回避策」に加えた。
  • 2026年7月22日:TuxCareの記事(出典20)で示されたライブパッチの配布を「修正と回避策」に加えた。
  • 2026年7月23日:Greenboneの記事(出典19)で示された悪用の報告の有無を「悪用の状況」に、ネスト仮想化の既定を「対象の製品と版」に、検査フィードの検出を「修正と回避策」に加えた。
  • 2026年7月27日:CloudConeの保守の告知(出典12)を加え、修正の完了を「時系列」に、保守の時間を「修正と回避策」に加えた。
  • 2026年7月29日:CVE記録(出典1)のCISAのADPの7月29日の更新に合わせ、CWEとSSVCの値を「脆弱性の内容」の表1に加えた。
  • 2026年8月26日:Ubuntuのブログ(出典3)の8月26日の更新に合わせ、「脆弱性の内容」と「対象の製品と版」の記述を改めた。
  • 2026年9月2日:CloudLinuxの記事(出典13)の9月2日の更新で示された修正済みのカーネルの提供を、「対象の製品と版」の表2に加えた。
  • 2026年9月4日:OVHcloudの記事(出典10)の9月4日の更新に合わせ、「修正と回避策」の再起動作業の記述を改めた。
  • 2026年10月3日:CVE記録(出典1)の10月3日の更新で加わった5.15.222を「対象の製品と版」の表2に、NVDの記録(出典14)の10月3日の更新を「脆弱性の内容」の表1に加えた。
  • 2026年11月6日:UbuntuのCVEページ(出典4)とSUSEのCVEページ(出典7)の11月6日の更新で示された修正版と状態を、「脆弱性の内容」の表1と「対象の製品と版」の表2に加えた。

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